田村ゆかりさんの「Overture 〜bloom〜」「デイジーブルー」 について
はじめに
本記事は、田村ゆかりさんの「Overture 〜bloom〜」「デイジーブルー」を聴いた感想と妄想を備忘として記すものです。
ほぼ「Overture 〜bloom〜」の感想で、大体はツイートの再編です。
なお前提として、
- 私は田村ゆかりさんの事を殆ど知りません。のうりんの「秘密の扉から会いにきて」が良かった事と、先日開催されたリリカルパーティーでのトークがかなり面白かったという事くらいしか知りませんでした。
- 私は楽器にも音楽にも歌にも声優にも何も詳しくないです。
曲の簡単な紹介
「Overture 〜bloom〜」は、田村ゆかりさんのアルバム「銀の旋律、記憶の水音。」の第一曲目です。
楽器の演奏は無く、声だけで構成されています。
アルバムの中の立ち位置及び曲の構成は、アルバムオリジナルで収録時間が短く(36秒)、含まれる要素を絞った、一般的なバンドのアルバムに於ける(?)前奏曲/間奏曲/後奏曲と同じようなものです。
感想と妄想①
以下、曲の中の時系列に沿って感想と妄想を並べます。
<0秒~ 歌い出し 空気を吸い込む音>
・曲中に吸気音が聴こえる曲は数あれど、吸気音そのものを聴かせようとする曲はあまりありません。曲の、アルバムの始まり一発目に吐息を持ってきている様には、「息の一瞬すら見逃すな。私達は本気でこのアルバムを作っている。お前たちも本気でこのアルバムを聴け」という気迫と自負、自信のようなものを感じます。
・私はアルバム「銀の旋律、記憶の水音。」を正直「取り敢えず聴いておこう」くらいの気持ちで再生し始めたのですが、この吐息を聴いた瞬間にアルバム全体への期待度が一段跳ね上がりました。
<1秒~ 歌い出しの空気を吸い込む音の末尾、粘膜音>
・口を開いた時のような、接着した粘膜が離れるような音が聴こえます。
・ここまで収録する必要無いのでは…とも少し思いますが、これにより声が感じさせる人間性や温かみ、現実性のようなものが増しているように思えます。狙っているものかは分かりませんが、前述の吸気と同じように、これにもアルバム制作陣の自信のようなものを感じました。
<1秒~ ハッ…ハッハ♪>
・6回、ハッ…ハッハッ♪という歌唱が繰り返されます。
・2回でワンセットになっていて、それぞれの最初のハの音に高低があります。
「ハッ↑…ハッハ♪ → ハッ↓…ハッハ♪」✕3のように。
・「ハッ…」が余韻を残して次の「ハッハッ♪」に重なるようになっているのが、とにかく気持ちが良いです。「ハ」だけでここまで心地よい音が作れるのかと、衝撃を受けました。
・もう一つ言いたい事があるのですが、若干ネタバレ感があるので後ほど述べたいと思います。
<1秒~以降>
・歌い出しとハッ…ハッハッ♪で否が応でも抱かされた期待を裏切らない展開が続きます。音運び、コーラスのハモり方、音のこもらせ方、音の末尾の余韻の残し方、20秒~で低めの声になるなど、全てが心地よく響きます。
・もう少し詳しく書けなくもないですが蛇足だと思うので、ここは一旦終わりたいと思います。
<一旦まとめ>
・この曲は、声そのもの・声の重なり・余韻、が生む心地よさが尋常ではありません。
この声とこの曲のタイトル(bloom=開花)だけで、「空気の澄んだ朝、太陽はまだ寝ぼけている。柔らかな風に撫でられて、蕾が開く」、そんな光景が思い浮かびます。希望に溢れた朝のようです。
・聴けば分かるかと思いますので、是非一度、実際に聴いてみて欲しいです。
感想と妄想②
以下、私がこの曲とアルバムを聴いて最も衝撃を受けた事について記していきます。
若干のネタバレ感がありますので、「銀の旋律、記憶の水音。」の本曲と、次曲である「デイジーブルー」を続けて聴いた後にどうかご覧下さい。アルバムを通して聴くのもいいと思います。
ここまでざっと聴いた印象だと、Overture 〜bloom〜は全体的には明るい曲で、希望に満ちているように思えます。
更にアルバムでの次曲は、朗らかに蝶が舞うようなイントロから始まる「デイジーブルー」。
ブルーデイジーの花言葉は「無邪気、純粋、幸運、etc」で、同系統の「Overture 〜bloom〜」から明るく素晴らしく繋いでるように感じます。(後続の曲も暫くは明るい曲調が多いです)
だが、何かがおかしい
「デイジーブルー」を聴いていくと、最初こそ次への希望とも取れる言葉があるものの、終始失恋の歌である事が分かります。この曲は無邪気なだけでも、純粋なだけでも、幸運なだけでもありません。曲調は明るいけど歌詞が全く明るくない。
…ここでやっと、タイトルが「ブルーデイジー」(花の名前そのもの)ではなく「デイジーブルー」になっていた事の意味に気づくのです。
タイトルを壮大なトリックの一部として使っている事に気づいた時、私は笑ってしまいました。ここまで見事にひねくれたタイトリングは、今まで見たことがありません。
改めて「Overture 〜bloom〜」を聴いてみると
<1秒~ ハッ…ハッハ♪>
・ここのハッ…ハッハ♪は6回繰り返されるのですが、最後の6回目の「ハッ…」だけが低めの、若干の不安を感じさる音になっている事に気づきます。
・この、たった一瞬。恐らく0.5秒程。アルバム全体約1時間のうち、およそ7200分の1の一瞬。この一瞬が、次の曲デイジーブルー、ひいてはアルバム全体への伏線になっているのです。
(アルバム全体でも割と報われない歌詞が多い)
・もはや狂気を感じます。この0.5秒を生んだ作曲家も本当に凄いし、この0.5秒を生ませた田村ゆかりさんという存在にも畏敬の念を抱かざるを得ません。
・声優が出すアルバムの一曲目として、この曲を超える曲を私は一曲も知りません。
これこそが声の力だ、そう思えます。
おわりに
・まだ田村ゆかりさんの曲は銀の旋律、記憶の水音。くらいしか聴いた事がないのですが、前奏曲などがあるアルバムもチラホラあるらしいので聴くのが楽しみです。
・このアルバムがリリースされた2006年、私は恐らく小学生で、アニメも声優も音楽もまともに知りませんした。
今では思いを馳せる事しか出来ませんが、これ程までに完成されたアルバムの第一曲目とリアルタイムで出会えた諸兄は本当に幸福だったのだろうと思います。
恐らくSNSもまともに存在しない時代だったのではないかと思いますが、もし自分が当時このアルバムと出会っていたら、その衝撃を誰かと語りたくて死にそうになっていたことだと思います。